ながされて無職

無職になった50代女性一人暮らし。ずっと働かないわけじゃない。

無駄の多い生涯を送ってきました -82000円の部屋-

「恥の多い生涯を送ってきました。」

 

と書いたのは、『人間失格』における太宰治

 

それにならえば、「無駄の多い生涯を送ってきました」というところ。

私の人生において「実に無駄だったよ!」と思うことの一つに、「家賃82000円の部屋」に住んでいたときのことがあるのです。

本日は、お家賃高額部屋のお話です。

 

 

転職を期に引っ越した部屋

1.当時住んでいた部屋は

私は現在、39000円のワンルームに何不自由なく機嫌よく暮らしています。

が、こんな私にもうっかり高額なお部屋で暮らしていた過去があります。

 

当時、勤めていた会社を辞めたくなった(またかよ)私は、それを期に引っ越しをもくろんでいました。

まだ、「次の職場を決めてから今の会社を辞める」分別があったころのことです。

給与面がちょっぴり不満だった私は、「お金をたくさんもらえる(笑)」ことを条件の一つに大いに盛り込み転職活動。幸い『月給』がかなりアップする職場に就職することに決まりました。

 

そのとき住んでいたのは家賃61000円の1K。3方に大きい窓があり、風通しがよく爽やかである一方、冬場の寒さが身にこたえる部屋でした。

始めはその部屋に満足して暮らしていたものの、徐々に体も辛く感じるようになり、「ええい!こんな寒いところはオサラバだ!次はうんと快適なところを探すもんねー」と勇んでおりました。

 

新しい職場はまあまあの繁華街にあり、その近辺で探しました。そのため、部屋探しの予算もちょっとアップし「7万円くらいかなあ」。

不動産屋さんに何件か見せてもらったのですが、どれも「うーん、ピンとこない」。

 

2.魅惑の内見

そのとき、不動産屋さんが「ちょっと予算より高くなりますが、こちらはどうでしょう」と案内されたのが、82000円のその部屋(ちょっとレベルの予算オーバーじゃないよね)。

 

エントランスへの重厚な扉ドアを開けたとたん、

「まあ、なんとすばらしいのでしょう!」

別世界が広がっていたのです。

「これぞエントランス」と呼ぶべき、高級ホテルのような静謐でありつつもきらびやかな空間。暖色系の間接照明が優しく足元を照らす。

 

それまで住んでいたマンションは、建物のドアを開けるとすぐに階段(エレベーターなし)。その階段下には野菜などが山積みにされ(大家さんがそのビル1階で飲み屋さんをやっていた)、住人は芋の箱をよけながら階段の1段目に足を乗せるという愛嬌のある造りだったのです。

 

対照的な広く斉整たる空間に驚きつつも、うっとりとエレベーターで部屋のある階へ。

目の前には絨毯敷きの内廊下が続き、足音を吸っていく。

 

そして、部屋のドアを開けたそこには、クリーム色の広い広い部屋(7.5畳だが当時5畳の部屋に住んでいたためとてつもなく広く見えた)がダウンライトに照らされていたのです。

そして、思わず駆け寄った窓の外には、都会のせつなくも美しい街並みが広がっていたのでした。

「ああ、これぞワタクシが求めていたアーバンライフ(笑)」

 

「ここにします」

 

3.高額部屋のスペック

  • 23㎡1K、風呂トイレ別、収納広い
  • 10階、眺望良好
  • 駅2路線(徒歩3分、5分)、繁華街にあり
  • 家賃82000円

 

高額部屋、住んでみれば

1.眺望のよさは

部屋を決めた一番の理由が、コレ。

朝は都会のオフィスビルが陽の光に照らされキラキラと輝く。夜はカーテンを開ければ、そこには一斉にまかれた光の粒が遠く果てしなく広がる。

ああ、ワタシ、都会で生活しているわ!(田舎出身なのでものすごくあこがれていたのだ)

 

でもですね、やっぱり慣れるのですよこれ。

「カーテンを開ける → きれいだね → ふーん」までおよそ1分。

それよりもさあ、明日の仕事のあれどうしよう。ちょっと準備するか、やーだなー。

働き始めると、また仕事のことだけで頭いっぱい「それどころじゃないよ」となる。

 

2.広さは

私には広さは必要なかったです。ほんとに。

これ、人によってものすごく違うと思います。

生活の好みと習慣って、私は変わらなかったなあ。

 

始めは雑誌に載っているような「おしゃれ生活」を目指して(ふふ)、家具を見に行ったりしていたのですよ。おしゃれなベッドにおしゃれなソファセット。

で、帰ってきて布団で寝ると「アレいるか?」となる。「あんなでかい物、買ってどうする?」

そういえば昔から「ソファーでなく座布団」「ベッドでなく布団」といった、「地べた生活」を自分が好むことに、ようやくはっきりと気付いたのでした。

ダウンライトの灯った広くおしゃれな部屋のすみっこに、ちゃぶ台&座布団でポツンと座っている私。

 

3.家賃は

先ほど、『月給』がかなりアップした職場に就職した、と書きました。

「月給」を二重かぎかっこにしたのには意味がありまして。

そう、アップしたのはあくまでも「月給」であって、その会社、ボーナスがものすごーく少ない会社だったのですよ。年収でみるとほとんど前の会社と変わらないくらい。くうー。

ということで、「給料も上がることだし、少しくらい良い部屋に住んでもよかろう!」と高級部屋を選んだのですが、実際の生活はといえば、家賃負担が重くのしかかるようになったのでした。

 

そしてついに、その部屋に住んで2年半たったある日のこと。

急に「家賃、モッタイナイ!」と我慢ならなくなり、そこから500mも離れていないちょっとお安めの部屋に、また引っ越したのでした(アホですよ、だからお金もたまらないんだよー)。

 

お高い部屋に住んでみてどうだったか

1.暴挙に出た理由

「アンタってどこまで軽率なんだよ。はじめから身の丈に合わせて39000円の部屋に住んでりゃいいのに」

「そうすりゃ、お高い部屋の家賃と何回もやった引っ越し代ためて、今ごろもうちょっとは預金残高あったろうに」

「ホント、無駄な人生送ってるよ」

ああ、おっしゃる通り。生活費で何よりも高いのが家賃。固定費削減・家賃削減は家計のキモです。

 

しかし当時は、今の状況である「無職」、それも「働きたくなくてどうしようもない無職」に自分がなるなんて、考えたこともなかったのです。たとえ会社は辞めたとしても、働かないという考え方自体はこれっぽっちもなかったのです。ほんとに。

「働いて、お金を稼いで、それを使う」という生活が少なくとも定年まで続くと当然のように思っていたのです(信じられない)。

 

2.住んで満足しました

私は当時も今も、この部屋に住んだことについて、実は非常に満足しています。

「ああ、一回住んでみなきゃ分からなかったよね」「あのときあの部屋に住んでおいてよかったね」と。

 

高層階、夜景の見える部屋、高級な造り、おしゃれな雰囲気・・・。

住んでみて気が済みました。そして、自分にとってはそれらがそれほど重要でなかったことを実感したのでした。

 

3.無駄だったのだろうか

客観的に見れば、大変な無駄ですよね。お金使ったなー。

こういう無駄なことを、体験しなくても無駄と分かる人もたぶんいるよねえ。ほんとうらやましい。

でも、当時の私が無駄なことをあらかじめ避けられたかといえば、たぶん無理。自分にはきっとそれが必要なことだったと思うのです。

そしてもし、体験していなかったら、今も「一度でいいから、夜景の見える広くておしゃれな部屋に住んでみたいな。あのとき住んでおけばよかったな」と焦げ付くような欲望やら後悔やらに苛まれていたかもしれないのです。

今はネットの不動産情報を見ても(趣味の一つ、妄想を楽しむ)「この間取りいいじゃん。でもまたああなるよね」と心穏やかにサイトを閉じることができるのでした。

 

今の状態(無職)は必要なことなのだろうか

今、働きもせず預金を切り崩して生活していることは、明らかに老後を含めたこれからの危機につながっているわけで、「無駄」以上に「暴挙」ともいうべき状況です。

それなのに、今自分が切望していることは、無職の継続。

「どうか仕事から離れて何もせずに過ごす時間が少しでも長く続きますように」

これ、どうしたもんか。

 

いつの日か「まあ、あのときはああするしかなかったんだよねえ」と思うのでしょうか。

それとも、近い将来、「ああっ、あのときちゃんと仕事していればこんなことにはっ」と激しく後悔するのでしょうか。(おそらくこっちだな)

 

あの高級部屋への欲望が叶えることでいつの間にか消えたように、いつかは無職の欲望もきえるのでしょうか。せめて少しは和らぐとよいのですが。(もう、危機は迫っているよー)